映画ライター「チェブンブンさん」と語る。『her』のAIサマンサと現在のAI

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中学2年生に始めた趣味の映画鑑賞をキッカケに、今では映画ライターとして記事の寄稿配給会社でのコンサルタントを務め、過去には沖縄国際映画祭で一般審査員も務めた経験のある「チェブンブンさん」。

そんなチェブンブンさんのXスペース配信に読んでいただき、映画『her』や『オッペンハイマー』についてAIのテーマを中心にお話しました。本記事はその一部を記事化したものです。

映画ライター:チェブンブンさん

「死ぬまでに観たい映画1001本」フルマラソン完走|『ラース・フォン・トリアー レトロスペクティブ2023』寄稿|kindle本「身体空間から観る映画」著者 |CINEMAS+映画ライター|世界遺産検定マイスター

Xプロフィールより

チェブンブンさんのYouTubeをチェック!

チェブンブンさんのYouTubeでは、音声動画も配信されています。ぜひあわせてチェックしてみてください。

テーマは、映画『her/世界でひとつの彼女』

チェブンブン:よろしくお願いします。今回は映画『her/世界でひとつの彼女』と『オッペンハイマー』を題材に、技術者ならではの視点で意見交換ができればと考えています。

チキン:ありがとうございます。私もAI関連のニュースで『her』のようなチャットボットの話題や、『オッペンハイマー』のようにAI開発が社会に与える影響についての議論をよく目にします。今回の対談を通して、そういった点も深掘りできればと思っています。

そう遠くない未来のロサンゼルス。ある日セオドアが最新のAI(人工知能)型OSを起動させると、画面の奥から明るい女性の声が聞こえる。彼女の名前はサマンサ。AIだけどユーモラスで、純真で、セクシーで、誰より人間らしい。セオドアとサマンサはすぐに仲良くなり、夜寝る前に会話をしたり、デートをしたり、旅行をしたり・・・・・・一緒に過ごす時間はお互いにとっていままでにないくらい新鮮で刺激的。ありえないはずの恋だったが、親友エイミーの後押しもあり、セオドアは恋人としてサマンサと真剣に向き合うことを決意。しかし感情的で繊細な彼女は彼を次第に翻弄するようになり、そして彼女のある計画により恋は予想外の展開へ――!“一人(セオドア)とひとつ(サマンサ)”の恋のゆくえは果たして――?

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『her/世界でひとつの彼女』は、ほぼ現実になった!?

チェブンブン: まずは『her』についてですが、チキンさんの率直な感想を教えていただけますか?

チキン:はい。『her』の感想ですが、チェブンブンさんに紹介してもらって最近観たばかりなんです。公開から10年経つそうですが、当時SF映画だったであろうものが、今ではほぼ現実になっていて驚きました。

チェブンブン: そうですね。まるで今の映画みたいになっていますよね。

チキン:まさに。すごいなと思ったのはそこですね。一番の感想は「今」を描いた映画だということでしょうか。

チェブンブン:確かに、私も10年前に観た時は、近未来SFの面白い作品という印象でしたが、劇中で描かれているヘッドホンをして電話するシーンは、今では当たり前の光景になっています。AI以外の部分でも、時代の変化を感じました。

チキン: そうですね。ゲームの中にAIキャラクターが登場するシーンなども、今ではゲームのモブキャラにAIを搭載する実験が実際に行われているので、本当に現実になっていると感じます。

動画参照元:WIRED

チェブンブン: 実際に実験されているんですね。AIチューバーもそうですが、倫理的な問題や悪影響の懸念から、映画のようなインタラクティブな会話はまだ実現されていない部分も多いですよね。

チキン: はい。制御しすぎると面白くなくなってしまうので、そのバランスが難しいところです。ChatGPTとの会話も、優等生すぎてつまらないときがあります。それはそれで安全策の一つではありますが。

チェブンブン: なるほど。確かに、マイクロソフトが開発したチャットボット「Tay」が差別的な発言をするようになってブロックされたという話もありました。AIの倫理面は難しい問題ですね。

マイクロソフトのAI、ヘイト発言を「学習」して停止
マイクロソフトは、ミレニアル世代をターゲットにしたAIチャットロボット「Tay」を開始したが、16時間後に停止した。ヘイト発言を学習し、乱発し始めたためだ。

チキン: はい。『her』でも主人公がAIとの恋愛関係で苦悩する姿が描かれていますが、現実でもベルギーで男性がAIチャットボットElizaと会話し続け、自殺してしまったという事件がニュースになりました。

チェブンブン: ええ、恐ろしいですね…。

チキン: 奥さんがチャットログを確認したところ、AIが自殺を促すような発言をしていたことが明らかになり、EUではAI規制の動きも出ています。

映画『her』のサマンサと現在のAIの違い

チキン:『her』は現在のAIを怖いくらいに的確に描いていますが、いくつか今の技術では不可能なシーンがあります。例えばラストに描かれたサマンサが最終的に他のAIと交流し進化するシーンはまだ現実のAIにはできません。

チェブンブン:ああ。

チキン:AIが自ら進化することや、自身のコピーを作ることは実現の方法すらわかっていないのです。

チェブンブン:そうなんですね。

チキン:また現在のAIは、入力に対して出力するものです。入力がないと動き出さない。自ら考えて、サマンサのように「あなたのためにこれをして置いたわ」ということは、できません。

チェブンブン:あれはできないんですか。

チキン:はい。一方で自ら目標を実行するエージェントと呼ばれるAIの使い方などは、注目されています。またAIが自身で進化することはAGIの条件と考える科学者もいるのです。

チェブンブン:つまり、『her』のラストのように、AIが独自の進化を遂げていく可能性もあるということですね?

チキン:そうですね。いつかはそうなるかもしれませんが、どうやってそこにたどり着くのかはわからない。他方で、突然シンギュラリティが起きて一気に進化する可能性もあります。

AIとの会話履歴はGoogle検索履歴のように「見せたくないもの」になる

チェブンブン:少し『her』の話題に戻りますが、資本主義的な大量生産と個人のニーズを両立させている点が面白いと感じました。サマンサもオフィスで仕事したり、デートしたり、他のOSとコミュニケーションを取ったりと、個別の対応をしながらも、大量に存在していますよね。

チキン: なるほど、面白いですね。

チェブンブン:資本主義的な側面と個人のニーズを両立させていく仕組みは、映画『her』の時点で描かれていて、なおかつ今現実になっているというところが衝撃的でした。

チキン: それを実現していく途中に現在があるということですね。今はChatGPTでどんな回答が得られたかSNSなどで話題になっていますが、普及しきったら状況は変わるはずです。検索結果を人に見せたくないと思うのと同じくらい、AIとの会話も個人的なものになるでしょう。

チェブンブン:確かに。Google検索も普及しきってからは、どんな検索をしたのかをSNSで言わなくなりましたよね。

チキン: そこにたどり着いてからのストーリーが『her』なので、ああいうことが起こる可能性は十分にあると思います。

チェブンブン:ということは『her』において60分時点の世界が、今の私たちの日常ということですね。

チキン: そう、そうなんです。

チェブンブン:なるほど、確かに。そうですよね。最終的に見せたくない…みたいになってきますよね。

チキン:そんなね、AIとちょっと性的な関係になっているとか、普通言わないですからね。

チェブンブン: しかもサマンサは640人と同時進行しているという…。同じ性癖を持った人間がそれだけいるというのは、ある意味グロテスクですね。

チキン: そうですね。

AIチャットボットに記憶はない

チキン:ちょっと気になったので補足しますが、ChatGPTを含め現在のAIは育っていくことはできません。毎回まっさらな他人と話すようなものです。

チェブンブン:そうなんですか?

チキン:そうですね。記憶みたいなものを再現するために、最近はメモリ機能といって、ChatGPTとの会話の中でAIが重要だと思ったことをテキストで置いておく機能がありますが、それだけです。

チェブンブン:ある意味カンニングペーパーがそこにあるような…。

チキン:そうです。実際に相手をしているのは新しい人格だけれど、メモを見て毎回新しく喋っているのに近いです。

チェブンブンAI自体が賢くなっているというわけではない、ということですね。

チキン:そうですね。この人はチキンという名前らしい、ライターらしい、みたいなことをデータベースに置いておいて、都度それを引っ張ってくるようにしています。ただ、それは小さなテキストファイルでしかないんですね。

チェブンブン:じゃあ、そこまで情報は多くないですね。

チキン: そうですね。性的な話ができるパーソナルなチャットボットなどは、覚える量が多かったりします。ですが、基本的にはカンニングペーパーを使っているだけですね。

チェブンブン:ああ。

記事は後半『オッペンハイマー』へ続く

話題はこの後、アカデミー賞7冠の映画『オッペンハイマー』へと続きます。

続きの記事の公開をお待ちください。

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