「心が壊れる前に、ちゃんとケアする」という考え方は当たり前になってきた。
でも、自分の心の耐久度は、実際にはよくわからない。
「やる気が出ない」「もう頑張れない」そう感じてしまうのは、鬱の予備軍なのか、それともただの甘ったれた性格なのか……。
自分では答えを出せずにいたところ、心療内科医のまえまえ先生の発信を見つけた。
ライト層に、もっと気軽に心理療法を活用してほしい
セルフケアでバーンアウトを防ぐのが大事
ライト層ってなんだ?
セルフケアってことは、自分でできることがあるのか?
病院に行くほどでもないけれど、それでもしんどい気分の浮き沈み、それをなんとかする方法が知りたく、まえまえ先生に直接お話しを聞いてきました。
東京都町田市の心療内科医「まえまえ先生」
まえまえさん、実は僕、まえまえさんのことはXやコミュニティでお見かけしているだけで、普段のお仕事についてよく知らないんです。心療内科のお医者さんという認識で合ってますか?
そうですよ。3年ほど前から東京都の町田市で『和クリニック』を開業し、院長をしております。もともとは兵庫県神戸市出身で、島根大学医学部を卒業後、東京大学病院で研修医になりました。
その後、東京大学病院精神科に入局し、国立精神・神経医療研究センターを経て、トラウマ専門クリニックで研鑽を積みました。そして町田市にあったクリニックを継承し、現在は院長という流れですね。
ご自分のクリニックを持つ院長先生だったんですね!Xなどでは「もっとライトな層にも心理療法を利用して欲しい」というメッセージを発信しているんですよね?
そうですね。「精神疾患の診断を受けるほどではないものの、日頃ストレスを感じている」というライトな層に、セルフケアの方法を普及させたいと考えています。アメリカではスタンダードになっているトラウマケアなども取り入れて、自分で自分をケアできる方法を伝えられたらいいなと。
僕自身、病院に行くほどではないものの気分の浮き沈みには毎度悩まされているので、ライト層になるのかなと思っています。今日はお話を聞けるのが楽しみです。よろしくおねがいします。
よろしくお願いします。
そもそもライト層とは?心療内科を受診する人との違い
そもそもライト層とはどういう人たちでしょう?心療内科を受診する人と何が違うのですか?
ライト層は「日常生活に支障はない程度だけれど、精神的に何らかの困りごとを抱えている人たち」ですね。心療内科を受診するレベルになるかどうかは、日常生活に支障が出ているかが判断基準のひとつなんです。
なるほど。僕自身ひどく落ち込んだ時期に心療内科へ電話したことがあるんですが「日常生活はできていますか?」と聞かれたのを覚えています。そのときは日常生活はなんとかできていたので結局受診しなかったのですが、そこが判断基準だったんですね。
そうですね。チキンさんのように、仕事や家事、学業などをこなせてはいるものの、ストレスのある緊張した状態で過ごしている人は多いんです。そういう方がライト層に分類されます。
症状が悪化し、日常生活に支障が出るようになると心療内科の受診が必要となります。そうなるまえにセルフケアをする方法を身につけてほしいですね。
自分はライト層?気付ける人・気づけない人
ライト層の人は、「自分はライト層だ!」と自身で気づけるものでしょうか?
気づける人と気づけない人、どちらもいると思います。気づけない人は、自分のメンタルの状態に意識を向けず、無理をして頑張り続けてしまうんですよね。
「疲れているけど、まだやれる」「もっと頑張らなきゃ」と体の状態を無視して限界まで突き進んでしまい、結果的に心身のバランスを崩して、ドーンと一気に落ちてしまう。そういう人が心療内科を受診することになるケースは多いですね。
なるほど。頑張りすぎて精神を病んじゃうっていうのは、よく聞くパターンですね。逆に気づける人は、どんなふうに自分の状態を把握しているのでしょう?
例えば「なんだか最近しんどいな」「気分が落ち込むな」「やる気が出ないな」と感じた時に、それを無視せずに「少し休もう」「ストレスの原因を減らそう」と行動できる人ですね。自分の状態に気づき、適切な対処をすることで、心身の健康を保てているのだと思います。
そうなると日常の憂鬱だったり、気分の浮き沈みもライト層になるわけですね。そしてそれを自分自身でケアする方法があるのだと。
そういうことです。
ストレスやトラウマは「生命の危機」に対する本能
気分が落ち込んだり、やる気が出なかったりするのは、だれにでもあることですよね?
そうなんです。そもそもストレスは本来「生命の危機に瀕した時の体の反応」で、だれにでもある反応です。例えば、目の前に猛獣が現れたら、心臓がドキドキしたり、血圧が上がったり、筋肉が緊張したりしますよね? これは、戦ったり逃げたりするための準備をしている状態です。
人間の場合は想像力がありますから、実際に生命に危険がなくても、仕事、人間関係、経済状況など、様々な場面でストレスを感じてしまいます。そしてストレス状態が長く続く、つまり体が緊張した状態が長く続くとリラックスするのが難しくなり、心身の疲労が蓄積しやすくなります。
生命の危機を感じている状態が続いたら、心身に影響が出るのも当然ですね……。
そうなんです。さらに、過去のつらい経験がトラウマとなって悪影響が出るケースもあります。特定の場所や人に会うと気分が悪くなったり、不安になったり、まるで条件反射のように無意識に反応を引き起こすんです。
ほかにも、トラウマのせいで本来取るべき行動が取れなくなってしまうこともあります。パワハラ上司がトラウマになってしまい、転職して違う上司になったのに無意識に体が反応してうまく対応できず、新たなパワハラを引き寄せてしまうなど。そんな状態から抜け出すために適切なケアを受けて克服してほしいですね。
環境を変えてもトラウマで苦しむのはつらいですね……。
人は環境に大きく影響されますからね。逆に自然豊かな場所に行くと心がスッと落ち着くという人もいます。そういう心のトリガーを戻す方法をたくさん持っているといいですね。
中途半端なセルフケアは逆効果?キーワードは「休息」
気持ちを切り替えるのが大事なんですね。僕はゲームが好きなので、落ち込んだらゲームしようかな。
ゲームだと、ちょっと緊張した状態が続いてしまうので、よくないかもしれないです。「パーティーに参加する」など気分を上げるタイプの発散もそうで、一時的には大きなストレスから逃れられるものの、休んでいるとは言えない…。大事なのは休息なんです。
若い人なら睡眠さえ十分にとっていれば休息もできるとは思いますが、年齢を重ねるとそうもいかなくなります。静かに瞑想をするとか、睡眠の質を高めるとか、心や体を休めることが大事なんです。
気分を上げるのが逆効果って怖い。それならまえまえ先生をフォローして、セルフケアの方法を学んだらいいですね。あれ?まえまえ先生、セルフケアの具体的な方法は発信していないんですか?
これが難しいところでして…。多くの人にセルフケアに取り組んでほしいんですが、中途半端なやり方だと効果がでないため、発信しにくいんです。トラウマに関してはセルフケアどころか逆にトラウマを強くするケースもあります。
そ、それならやっぱり、自分で自分をケアするのは難しいってことですか?
「怖い」「嫌だ」という思いをセルフで解決するのは避けて欲しいかもしれません。トラウマに自分だけで立ち向かうのはちょっと危ないかな。
セルフケアには、今現在の気持ちを落ち着ける方法もあるので、そういったものから試して欲しいですね。今から苦手な上司に合わなきゃいけなくて、緊張した体をリラックスさせたい。といったようなケアに取り組んでほしいです。
トラウマの根本をセルフで解決するのではなく、現在のストレスや緊張までを自身でケアするというイメージですか?
その通りです。トラウマと向き合う時は心療内科で、認知行動療法などを取り入れたカウンセリングを受けていただきたいです。
まえまえ先生おすすめのセルフケアと、書籍
無理のない範囲でセルフケアを取り入れてみたいので、おすすめの書籍やサイトなどあれば教えてください。
本で言えば『うつと不安への認知行動療法の統一プロトコル』ですかね。一部PDFで無料公開されていて、コチラだけでもやってみる価値はあると思います。
ありがとうございます。まえまえさん自身も今後セルフケアの発信を強化していくんですよね?
そうですね。実はサンマーク出版さんと一緒に、現在書籍を製作中です。
おぉ!そうだったんですね。お話を聞きながらずっと「書籍出してほしいな」と思っていました。もう進んでるんですね。まえまえさんをフォローしてチェックしておかなきゃ。
ありがとうございます。書籍が進んだらご報告しますね。それから、セルフケアにこだわり過ぎずに、もっとラフに心療内科も活用してくださいね。
「せっかく自分が学んだことを、クリニックに来た人にだけ伝えるのはもったいない」「薬を減らすためにも、漢方やセルフケアのアプローチも試してほしい」と語るまえまえ先生。心の問題で悩む人を本当に救いたいんだなと伝わってきました。
ライターとしては、記事を読みながらすぐに試せるセルフケアを1つか2つ聞き出したいところでしたが、ここは「間違ったやり方で悪化させたくない」というまえまえ先生のプロ意識として、読者のみなさまもご容赦ください。
記事中に紹介した『うつと不安への認知行動療法の統一プロトコル』と『PDF』には具体的なセルフケアが載っていますので、ぜひ僕と一緒に取り組んでもらえたらと思います。まえまえさんの書籍が気になる方は、ぜひご本人をフォローしてくださいね!
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